概要
八十年前、土砂崩れごと奈落の魔域に呑まれた村があった。 瘴気の中で生き延びた人々は、五年に一度、少女ひとりの歳月を捧げることで日々を保たせてきた。 村の中心には季節外れの桜が立ち、その根元に核が埋まっている。 依頼書にはただ「可能であれば奈落の核を破壊してください」とだけ書かれていた。
粗筋
大雨に濡れた一日の終わり、ハーヴェスの冒険者ギルドにクリストフ、テラリア、エルナ、リティア、ナヤツの五人が顔を揃えた。駆け込んできたのは名も名乗らない使いの青年で、商人の報せから一日半、奈落の芽吹きは今も育ち続けているという。報酬は一人 6000 ガメル。魔導研究所の厚意で魔導バイクを借り受け、ロロを彫像に変えて荷に括り、一行は日没の頃に現地へ着いた。半球状に地面へめり込んだ魔域を覗いたリティアの目には、なぜか入口が二つ同時に映る。通路と扉が見える方と、森が見える方。繋がったのは森の側だった。はぐれぬよう全員で手を繋ぎ、ロロの尻尾まで握らせて、五人は魔域へ踏み込んだ。
森で待っていたのは、南から何かに追われてきたグリズリーとフォレストコング二体。クリストフの大気爆発が四方に散り、テラリアの二刀とナヤツの薙ぎ払いが続き、最後に残った熊はリティアの必殺が四度転がって沈んだ。ほぼ一巡りで片のついた戦いの後、踏み固められた道の先から現れたのは、ごく当たり前の顔をした村人だった。生まれたときからここに住んでいる、と男は言う。八十年前の西洋様式で建てられた古い家々の間に、見慣れぬ様式の新しい家が混じっていた。崖崩れで消えた村の記録を思い出したクリストフが、その災害と目の前の街並みを重ね合わせる。ここは、外の世界から失われたはずの村だった。
樹神ダリオンを祀る神殿で応対した神官エレオスが、経緯を語った。八十年前に村ごと奈落の芽吹きに呑まれて以来、瘴気は五年周期で溢れ、そのたびにアンシア家の娘が儀式でこれを鎮めてきた。だが外の魔域と通じた影響で周期は早まり、今が限界だという。ドリアス家は幾度も核の破壊に挑んでは敗れ、住民はとうに諦めている。核を壊せば、出口を見つけられない者は魔域もろとも失われるかもしれない——ナヤツが指摘したその懸念に、誰も答えを持たなかった。「可能であればもう一度、この瘴気を気にせずに暮らしてみたいものですね」。そう言いかけたエレオスは、続く言葉を「いいえ、なんでもありません」と飲み込んだ。
村の中心に立つ季節外れの桜、シャローブロッサム。幹に近づくほど空気は重く、根元の土には紫黒い脈が脈打っていた。核はここにある。その夜、アンシア家の方から出てきた白髪の人影を、ナヤツとクリストフが三十歩の距離を保って追った。折悪しく鳴った警鐘に少女は取り乱して逃げ、見張り台の下でようやく振り返って刀を抜く。ソテリア・ドリアス——ドリアス家の歴代でも並ぶ者のない使い手であり、ナイトメアであるがゆえに村の大人たちから穢れ持ちと疎まれてもいる少女だった。西に湧いた魔人を一行が難なく片づけて戻ると、少女の目の色は変わっていた。深夜零時、今度は隣室の男が扉の隙間から部屋を覗いていた。ガレス・ベイン。六年前、自分たちが入ってきた側の核を砕いてしまい、帰り道を永久に失った放浪者である。彼の口から、儀式の代償が語られた。術者は一度ごとに五歳ほど若返り、限界を超えれば消える。墓地に並ぶ遺体のない墓は、そうして「なくなった」者たちのものだった。
二日目の朝、アンシア家は儀式当日を理由に門を閉ざしていたが、村は別の理由でざわついていた。儀式に使う宝珠が盗まれたのだという。ドリアス家当主にしてソテリアの兄ディカイオスは、次の儀式で瘴気は満開に達し、これが実質最後の挑戦になると告げ、彼岸の道への通行を許した。塩と折れた刀剣が流れ着くというその道の奥に、瘴気が吸い込まれていくのを確かめて一行は引き返す。手がかりは倉庫の裏にあった。消された足跡の先をロロの鼻が嗅ぎ分け、掘り返されたばかりの土から掌大の球が出てくる。鑑定したクリストフが息を呑んだ。アビスカースをことごとく退ける、二十七万ガメルの秘宝〈呪い抑えの宝珠〉である。
隠し場所をめぐる一悶着の末、宝珠は森の奥へ移された。十三時、稽古場で素振りをしていたソテリアを問い詰めると、少女はあっさり認めた。隠させたのは自分で、手配したのはガレスだと。儀式を長引かせ、村が混乱している隙に、ガレスの選んだ相手をひとり殺す——それが持ちかけられた筋書きだった。エオスの部屋で手順書を検めると、儀式は刃と宝珠と呪文で成る。呪文はこの村だけに伝わる奈落魔法で、ラルヴァであるリティアなら唱えられた。代償は一時間後の若返りと汚染ひとつだが、核さえ砕けば汚染は自ずと落ちる。「むしろ使いたいわね」。儀式を六度重ねて幼い姿になったエオスは、汚染が七——常人ならとうに魔人に堕ちている値に達していた。テラリア、ナヤツ、エルナが手持ちのアビスシャードを差し出して四まで下げると、張り詰めていた糸が切れたようにエオスは崩れ落ちた。
二十二時、屋敷裏の道。拘束を持ちかけたリティアに、ガレスと護衛は宝珠と刃を狙って牙を剥いた。相手が人である以上と全員が寸止めを宣言しての乱戦は、ナヤツの薙ぎ払いとエルナの魔法、テラリアの二刀で一方的に終わる。叫び声を聞きつけて駆けつけたソテリアは、初めて事情のすべてを知り、儀式の間エオスを守ると誓った。ディカイオスもまた「俺も行かせてくれ。これを見届けさせてくれないか」と申し出る。住民に知らせれば止められる。深夜、通達のないまま一行は桜へ向かった。
リティアが手順どおりに宝珠と刃を捧げると、幹が裂けて核が現れ、五体の思念体が湧き出した。回復と呪いを撒く花霞、狙いを乱す花吹雪、傷を分け合う葉桜。半分を割らせずに一体ずつ落とすと決め、削り、凌ぎ、削り返す。最後に守護者の座へ着いたのは、ともに戦っていたはずのソテリアだった。リティアの必殺が肉薄し、クリストフの大気爆発がとどめを刺す。核が砕けると、村は八十年前の、崩れなかった地盤の上へ戻された。桜はもう花をつけない、ただの大きな木になっていた。
「じゃあ俺たちも、入ってきたみたいに手を繋いでいこうか」。外に出たエオスが最初にこぼしたのは、空気の話だった。一ヶ月後、礼を携えてハーヴェスを訪れた二人は、紹介された店で飲み食いしすぎ、代金を働いて返すためしばらくギルドの周りで皿を洗うことになる。
名場面
入口がふたつ
魔域を覗いたリティアの視界に、なぜか二つの入口が同時に映った。片方は通路と扉、片方は森。GM いわく「ちょっとバグって二つ見えます」、繋がる先はダイス任せである。脅威度は 9——「ギリギリだがやれないことはない」水準で、待てば待つほど育つ。ならば行くほかない。はぐれ防止に全員で手を繋ぎ、ロロには尻尾を握らせて、五人は森の側へ踏み込んだ。この手繋ぎは、二日後に核を砕く場面でテラリアの「入ってきたみたいに手繋いでいこうか」として律儀に再演される。
宝珠の隠し場所会議
二十七万ガメルの秘宝を掘り出してしまった一行が、最初に検討したのは隠蔽である。ナヤツが「いいこと思いついた」と切り出し、「ロロに飲ませよう」、次いで「俺が飲む、顎外しますよ」。エルナの「こんなに汚れてるの飲んだらお腹壊したらどうするの」、リティアの「ミノタウロスでしょあなた、無理ですよ」、クリストフの「待て待て待て待て待て待て」が同時に飛んだ。森へ運んだナヤツは今度は獣の糞に埋めるという妙手を実行し、川での洗浄はクリストフが引き受けている。その隠し場所は合流した全員に一瞬で見つかり(クリストフだけは「ん? なんのこっちゃ?」ととぼけた)、リティアが隠し直した二度目は、ナヤツが「わっ見つけらんね」と唸る出来栄えだった。「なめてるのかてめぇ! お前が見つけられるわけねぇだろ!」
汚染度七
儀式を六度重ねたエオスは、若返って幼い姿になっていた。アビス汚染は上限の五を超えて七。常人ならとうに魔人化している値である。テラリアが「良ければこれ、こんだけしかないけど」と差し出したアビスシャードに、ナヤツとエルナの手持ちが加わり、汚染は四まで落ちた。「他の魔域を壊した時に発生したものなんだ」——自分たちが同じ災厄を潰して回った証を、そのまま渡した形になる。緊張の糸が切れたように倒れ込んだエオスに、テラリアがキュアウンズをかけた。そばで見ていたソテリアの態度が変わったのは、この瞬間からである。
「ゴミですゴミ悪い人です」
二十二時の裏道。心理戦のクリティカルで完全に油断していたガレスは、リティアが拘束を持ちかけた途端に本性を現した。エルナの見立ては早い。「あの人ゴミです、ゴミ、悪い人です」「目つぶしとか、毒とか使ってくるかも」——ダーティファイターの看破に、当のガレスが「ゴミ!」「てめえ」と激高する。相手が人族であるため全員が寸止めを宣言しての戦闘は、先制したナヤツの薙ぎ払いが護衛を一掃し、エルナの炎がもう一方を落とし、テラリアの鎧貫きがガレスを沈めて二巡りで終わった。ラウンド二には、叫び声を聞きつけたソテリアが味方として盤面に加わっている。
守護者はソテリアだった
桜が裂けて現れた思念体は、事前にエオスから聞いていた数より多い五体。花霞は周囲を癒やしつつ呪いを撒き、花吹雪は狙いを乱し、葉桜は受けた傷を仲間へ分け与える。「半分を割らせずに一体ずつ」の方針で削り合いを制した先に立っていたのが、ともに戦っていたはずのソテリアだった。リティアの必殺がわずかな体力まで削り、クリストフの大気爆発がとどめを刺す。「本当にソテリアが出てくるのを想定してなかった」とはクリストフの述懐で、GM も「大団円は想定していたが、ルートの辿り方は完全に想定外だった」と振り返った。核を砕いて外へ出たエオスの第一声は、「これが綺麗な空気なのね」「初めてね、瘴気が含まれてない空気を吸うのは」だった。




